春の日の書(ふみ)読む我れは若かりき 夢成らざるに虫の声聞く(少年老い易く…より)
滴塵018
本文
春の日の書(ふみ)読む我れは若かりき 夢成らざるに虫の声聞く
(少年老い易く…より)
形式
#和歌
カテゴリ
#8.比喩・諷刺・諧謔・引用
ラベル
#青 #秋 #無常 #引用 #人生 #虫 #夢
キーワード
#青春 #学び #夢 #挫折 #光陰矢の如し
要点
若き日の夢を忘れてはいないが、実らぬまま老いを迎え、秋の虫の声に無常を聞く。
現代語訳
春の陽気の中で書物を読み耽って夢を抱いた若き日。しかし夢は果たせていないのに、もう秋の虫の声がしている。時の移ろいを感じる。
注釈
少年老い易く学成り難し:「少年易老學難成/一寸光陰不可輕/未覺池塘春草夢/階前梧葉已秋聲」中国宋代・朱熹「偶成」の有名な詩句を踏まえる。もっとも最近の研究では、日本の禅僧の作という。
春の日:青春の象徴。夢や希望に満ちて勉学に励んでいた若き日
虫の声:秋の季節、また人生の晩期を暗示。
解説
この歌は引用を織り込みつつ、古典的な人生観を和歌に落とし込んでいる。春=青春の学びの季節、秋=人生の黄昏という対比を鮮やかに描き出し、成就せぬ夢を嘆じるとともに、人生の無常観を深く刻む。朱子学の影響を色濃く持ちながらも、感情表現は日本的な「虫の声」によって具体化され、東アジア的普遍性と日本的感性の融合を示している。
深掘り_嵯峨
これは、人生の無常と時間の不可逆性を、古典的な引用を背景に表現した述懐の歌です。
理想を追っていた「春の日」から、気づけば「虫の声」が聞こえる「秋」へと人生は進み、その間に「夢成らざる」という諦念が残っています。若さゆえの輝きと、それが失われた後の寂寥感が、対比的に深く心に響きます。